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東京高等裁判所 昭和49年(行コ)6号 判決

東京都新宿区西新宿一丁目七番一号

昭和四九年(行コ)第六号事件被控訴人

同年(行コ)第一〇号事件控訴人

(旧商号東都繊維工業株式会社)

第一審原告

松岡不動産株式会社

右代表者代表取締役

松岡清次郎

右訴訟代理人弁護士

溝呂木商太郎

東京都新宿区北新宿一丁目一九番三号

昭和四九年(行コ)第六号事件控訴人

同年(行コ)第一〇号事件被控訴人

第一審被告麹町税務署長訴訟承継人

淀橋税務署長

岡野茂

右指定代理人

武田正彦

室岡克忠

佐伯秀之

関根正

右当事者間の昭和四九年(行コ)第六号及び同第一〇号納税告知、徴収賦課決定処分取消請求控訴事件につき、当裁判所は次の通り判決する。

主文

一、(昭和四九年(行コ)第一〇号事件)

第一審原告の控訴を棄却する。

二、(同年(行コ)第六号事件)

原判決中、第一審被告の敗訴部分を取消す。

右取消部分にかかる第一審原告の請求を棄却する。

三、訴訟の総費用は第一審原告の負担とする。

事実

第一審原告代理人は、昭和四九年(行コ)第一〇号事件につき「原判決を変更し、第一審被告が第一審原告に対し昭和四三年一二月二七日付で為した源泉徴収にかかる所得税について昭和三九年六月分の給与所得の本税を金七五万五〇〇四円、不納付加算税を金七万五、五〇〇円とする納税告知及び賦課決定処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告訴訟承継人の負担とする。」との旨の判決を求め、同第六号事件につき控訴棄却の判決を求めた。

第一審被告訴訟承継人代理人は、昭和四九年(行コ)第一〇号事件につき控訴棄却の判決を求め、同第六号事件につき主文第二項と同旨及び訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする、との旨の判決を求めた。

当事者双方の事実に関する陳述及び証拠の提出、援用、認否は第一審原告代理人において、甲第八号証の一及至二六、第九号証の一及至三、第一〇及び第一一号証の各一乃至四、第一二号証の一、二及び第一三号証を提出し、同第七号証の一乃至九(原審提出分)につき作成者は堤直寛であると付加説明し、後記乙号証のうち、第二六及び第三〇号証の各一、二の成立は認めるが、その余の同号証の成立は不知と述べ、第一審被告訴訟承継人代理人において、乙第二五号証、第二六号証の一、二、第二七乃至第二九号証、第三〇号証の一、二、第三一及び第三二号証を提出し、前記甲号証の成立はすべて認めると述べたことを付加するほかは、原判決事実摘示の通りである。

理由

一、当裁判所は、当審における新たな証拠調の結果を斟酌するも、第一審原告の本件源泉所得税の加算税賦課決定及び納税告知処分の取消請求は失当であると判断するものであるが、その理由は、原判決の理由説明中、本件株式の売却差益金の預金利息金二万四、七二八円に関する部分を除いて、右理由説明と同一であるから、これを引用するほか、以下の説明を付加する。

(一)  成立に争いのない甲第一二号証の一(別件訴訟における証人上西康之に対する尋問調書)のうちには、訴外日栄証券株式会社の社長である訴外上西康之と訴外日興証券株式会社の会長である訴外遠山元一との間で、本件株式につき売買価格を一株一〇〇円とする商談が成立したのは昭和三八年一二月一〇日頃である旨の、右上西康之の供述記載部分があるが、右供述記載部分は、原判決の理由説明中甲第五号証の一、二、五(別件訴訟における証人上西康之及び同松岡清次郎に対する各尋問調書)のうち右甲第一二号証の一と同趣旨の供述記載部分が措信し得ない旨の説明(原判決の一二枚目表九行目から同一四枚目裏七行目迄)と同一の理由により、措信し得ないところである。しかのみならず、上西康之において遠山元一との商談の日が昭和三八年一二月一〇頃であるとする根拠は、東京証券取引所においては、原則として売買契約成立後上場株については四日以内に、非上場株については当日現物の受け渡しがなされることになつていることからみて、右商談は、本件株式の売買取引が現実に履行された昭和三八年一二月一三日の三日前である同月一〇日頃成立したと考えられるというのであるが(甲第一二号証の一、第四項)、文書の方式及び趣旨により公務員が職務上作成した真正な公文書と推認される乙第六号証、成立に争いのない同第一九号証及び前記甲第五号証の一、二、五(但し、甲第五号証の一、二、五についてはその一部を除く。)によれば、上西康之と遠山元一との間で行われた前記商談は、右上西の幹旋による売買交渉の過程において、遠山が一株一〇〇円で買受ける旨の意向を上西に示し、上西において松岡清次郎をして右価格で売却せしめることを引受けたものであつて、これにより実質的に売買代金が決定されたものと認めることはできるが、直ちに右同日本件株式を含む大量の高井証券の売買契約が松岡清次郎と山大不動産株式会社の間において締結されたものと認めることはできないから、右商談の日から売買取引が現実に履行された日迄約一〇日の期間があつたとしても、なにら異とするに足りないのであつて、右商談の日が昭和三八年一二月一〇日頃である。とする上西説明の前記根拠は当らないものといわざるを得ない。更に文書の方式及び趣旨により公務員が職務上作成した真正な公文書と推認される乙第二五及び第三二号証によれば、昭和三八年一二月始め頃日興証券株式会社より富士銀行兜町支店に対し、高井証券の安定株主工作のための株式買取資金として約一億五千万円の融資の申込があつた事実が認められ、また成立に争いのない甲第一三号証によるも、融資の細部の条件が決定したのは昭和三八年一二月一三日の直前であつたが、融資の大枠の申込のあつたのは同年同月三日頃であることが認められ、これらの事実は、上西康之と遠山元一との商談により本件株式の売買価格が一株一〇〇円と決定したのは同年同月三日頃であるとの認定を更に裏付けるものということができる。

(二)  成立に争いのない甲第八号証の一乃至二六、第九号証の一乃至三、第一〇及び第一一号証の各一乃至四によれば、昭和三九年一二月松岡茂名義をもつて総額約一、〇〇〇万円にのぼる多数の株式の買付がなされ、また昭和三八年度乃至昭和四〇年度の右松岡茂名義の所得税確定申告書には、昭和三八年度の配当所得として金八万円、昭和三九年度の配当所得として金七八万九、一六六円及び昭和四〇年度の配当所得として金一七四万七、一二九円がそれぞれ計上されていることが認められ、右事実によれば、右松岡茂において本件株式の売却差益金を預け入れた通知預金の解約金をもつて株式の買付をなしていたものと推認し得るかのように見える。

しかし、文書の方式及び趣旨により公務員が職務上作成した真正な公文書と推認される乙第二二号証及び成立に争いのない同第二六号証の一、二によれば、松岡清次郎は、かねてから松岡茂名義を含め、数人の他人名義を使用して株式を取得し、名義人の印鑑を自ら保管し、各名義人別に株式台張を作らせて右株式の管理処分を行ない、配当金を受領し、その代りに右名義人の配当所得に対して賦課される税金を右清次郎において負担していたこと及び右松岡茂等使用名義人の所得税の確定申告は、松岡清次郎の指示により同人が実質的に支配している関係会社の社員において作成し、これを管轄税務署に提出していたものであることが認められ、右事実によれば、前記の通り昭和三九年一二月頃松岡茂名義をもつて大量の株式の買付がなされ、かつ昭和三八年度から昭和四〇年度迄同人名義の所得税の確定申告書に記載された配当所得の額が逐時増加している事実をもつて、本件株式の売却差益金を預け入れた通知預金の解約金を松岡茂において収得し、株式の買付資金に使用したものとは、たやすく認定し難いものというべきである。

成立に争いのない乙第二一号証及び甲第一二号証の二並びに原審証人古川英郎の証言も、前記乙第二二号証に記載された古川英郎の供述内容の信憑性を覆すに足りず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

(三)  而して、銀行作成部分について成立に争いがなく、その余の部分については弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第四号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、本件通知預金は据置期間七日、利率日歩金七厘の約定であつて、昭和三九年六月一五日の解約迄に金二万四、七二八円の利息が発生し、右解約の際元金と同時に右利息金も返済されたものであることが認められるところ、右利息金について元金と異る処分がなきれたことを認めるに足りるなにらの証拠も存在しないので、右利息金も元金と同様松岡清次郎において、これを収得、費消したものと推認するのが相当である。

(四)  以上のほか、当審における新たな証拠調の結果を仔細に検討しても、昭和三八年一一月四日付の第一審原告より松岡茂に対する本件株式の売却が仮装であること、同年一二月一三日付の訴外山大不動産株式会社に対する右株式の売却代金四〇〇万円のうちから帳簿価格金二〇〇万円及び売買経費金九、九九四円を控除した差益金一九九万〇、〇〇六円を松岡茂名義で預け入れた通知預金が実質的には第一審原告に帰属すべきものであること、及び、昭和三九年六月一五日右通知預金の解約後返済された元利金を松岡清次郎において収得費消したものであること、以上の認定、判断を覆すに足りる証拠は存在しない。

二  以上の次第で、第一審被告麹町税務署長において、第一審原告が本件株式の売却差益金を預け入れた通知預金の元利金を、昭和三九年六月一五日右預金の解約後、松岡清次郎に対し臨時給与(賞与)として支給したものと認定し、第一審原告に対し、本件源泉所得税の加算税賦課決定及び納税告知処分を為したことは適法であり、その取消を求める第一審原告の請求は全部失当たるを免れない。

よつて、第一審原告の控訴(昭和四九年(行コ)第一〇号)は理由がないから、民事訴訟法第三八四条第一項の規定により右控訴を棄却し、第一審被告訴訟承継人の控訴(同年(行コ)第六号)は理由があるから、同法第三八六条の規定により原判決中第一審被告の敗訴部分を取消し、第一審原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法第九六条及び八九条の規定を適用し、主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 平賀健太 裁判官 輪湖公寛 裁判官 後藤文彦)

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